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かみひこうき

Category: 短編集  



記憶の中のお前は、笑顔しかもう思い出せない。


初めて会った時も、
初めて手を繋いだ時も、
初めて心の一番深い所に触れた時も、
初めてお前を抱きしめた時も、
お前は華のように笑ってくれていたな。


その笑顔がいつも俺の荒んだ心を癒してくれていたんだ。
たった1つ、守りたいと思える存在だったんだ。
時と共に愛情が育っていくのは自然で、いつの間にか『側にいる』のが当たり前になっていたな。
幸せは、手を伸ばせば届く距離の中に存在していたな。
俺の隣でお前がずっと笑っている。

そんな時間がずっと永遠に続くんだと思っていた。


だから・・・。


だから・・・・・・。


お前がいなくなるのがわかった時、どうしていいかわからなかった。

俺がずっと苦しんでいる間、お前はずっと1人で待っていてくれていたのにな・・・・・・。
耳をずっとふさいでいてゴメンな・・・・・・。
本当は知っていたんだ。


お前がずっと『変わらず側にいて欲しい』と呼んでいたこと。


でも俺はお前を失うことが怖くて動けなかった。
あんなにも守りたいと思っていたお前の笑顔が痛々しく見えるようになって、少しずつ距離が遠ざかっていったな。
その頃には途切れがちの会話と沈黙が、2人の時間を埋めつくしていたのを覚えているか?
それでもお前はずっと笑顔だけを浮かべていたな。
叶わない願いだと分かっていながら、『昔みたいに出かけよう』と明るく振舞っていたな。
最後にお前と手を繋いだのはいつだったけな?
それすらもう記憶から薄れているんだ。


別れの日。
「行くな。」と泣く俺に向かって、お前はいつものように笑顔で囁いたな。


「かみひこうき。」


その時は意味はわからなかったけれど、今やっと意味がわかったよ。
現実から逃げようとした俺を最後まで許してくれたお前の、最初で最後のわがまま。
この手紙を書き終えたら、かみひこうきにして飛ばすから。


お前がいるところまで届くことを祈って。


 
 
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